文化財活用事例視察 2日目
文化庁のから「NPO等による文化財建造物の管理活用事業」の助成を受け、梅津会館等の文化財建造物についての講座を開催しています。その事業の中で、活用に関する他地域の先進事例を学ぶため、静岡県へ視察に行って参りました。
写真は「旧五十嵐邸」、歯医者さんだった洋館を地域のNPOが活用しています。まず驚かされたのはその保存状態のすばらしさでした。管理しているNPOの皆さんは、毎日平均して二人が管理活用のため、五十嵐邸に常駐していますが、最初に行うのは「掃除」だそうです。歯医者さんとして利用されていたときと同じような、ぴかぴかに光る板廊下、チリひとつない綺麗な室内でした。伺ったのは10時を過ぎていましたが、その時間でもぞうきんがけをしているスタッフの方の後ろ姿がみえ、守るということの基本を見せていただいたような気持ちになりました。
内部写真を数点ご紹介します。
建物は木造2階建て、1階は元々居住スペース、歯科の診察室は、玄関入ってすぐある階段を使って2階になっていました。
右奥にあるのが診察台です。明治の時代、歯を治療できたのは一部に限られていたようで、広い診察室に診察台は1台のみでした。
こちらは診察室となりの待合室。この奥に和室の待合室が2カ所あります。
待合室に和室が2部屋あるのは、1つは明時代の伯爵も患者の一人であったための部屋、もう一室は(歯医者にはかかれるものの)平民用であったと言われています。下の写真はその伯爵が待っていたであろう待合室のふすま絵です。美術品といっていいような建具ですね。欄間には地域柄、富士山が刻まれていました。
部屋の中に、レトロな電話ボックスがあります。
電話ボックスがある部屋の隣には大きな金庫が目をひきます。治療に使用する「金」をしまって置くために使われたそうです。
なまこ壁もとても手の込んだ物が見られます。
五十嵐邸は旧東海道蒲原宿の歴史ある街道筋にあります。東西約1キロほどの街道沿いに本陣など古い建物が続きます。蒲原まちなみの会が長く活動を続けており、その延長上に『旧五十嵐邸を考える会』の活動も展開されてきたようです。
現在合併により、静岡市となっていますが、以前は蒲原町。町時代に、五十嵐邸の保存がきまり、町の予算で修復が行われ、管理を同団体が委託されていました。その後合併を経て、行政が町時代より「遠く」なり、活動の自由度がなかなか得にくくなってきている様子などを理事長、副理事長のお二方から伺ってきました。公平を旨とする行政側の思いも判らなくはなく、難しい課題を抱えながらも、楽しく活動を繰り広げている様子はとても胸を打つものでした。
蒲原宿もご案内いただきましたが、副理事長さんのご自宅も登録文化財であり、町中で活動をしている方がほぼ女性という点が、非常に印象的でした。町時代は、五十嵐邸でのお泊まり会など子ども達やその保護者世代に訴える事業を展開していたそうですが、市となってからはそのような利用ができなくなっているとか。団体のメンバーは、徐々に高齢化が進み、若い世代に向けての事業展開ができにくい状況は、今後の理解者・後継者を得るためには大きなネックとなるかも知れません。
今回の視察に置いて感じたのは、どこの活動も、順風満帆と進むところは少なく、課題を「課題として楽しむ姿勢」が大事だという基本のことでもありました。
(塩原慶子)