「いちまいばなし」を実演した佐藤悠と申します。

佐藤 悠

常陸太田アートミーティングで即興物語作り「いちまいばなし」を実演した佐藤悠と申します。
思いがけず参加者の皆さんが大変楽しんで下さったようで、
様々な所から当日の盛り上がりについて話を聞くごとに嬉しさを感じています。

この活動は、司会の私が参加者にリレー形式で話の展開を聞いてゆき、
その展開を1枚の紙に絵を書き加えてゆきながら1つの物語を作ってしまうという物で、
実際やってみるとよくわかりますが、
往々にして支離滅裂、荒唐無稽な物語がその場で出来上がり、
それぞれの参加者の発想や感覚がどれほど異なっているのかという事が露わになります。
いきなりこの活動に巻き込まれた参加者が、
他の参加者の想定外の発想に翻弄されながらも、
その異物や異界をどう受け止め、
おもしろがる事ができるかということがこの活動の大きなテーマとなっています。

理解し得ない状況にどう向き合うのか?
常陸太田で今起ころうとしている「アートプロジェクト」と言われるものの大きな役割も、
ある状況に対して共同体としてどのように向き合ってゆくのかをアーティストと参加者が共に考え、
そこで生まれた新たな向き合い方を継続的に実践してゆく場をつくる事にあります。
重要なのはアートやアートプロジェクトが
何かしらの問題の抜本的な解決策を授ける魔法の様な物ではなく、
あくまでも「向き合い方」の可能性を探るためのひとつのツールでしかないという事です。
答えではなく、答えの探し方を共に考える事、
それがアートプロジェクトの役割なのです。

「いちまいばなし」は、そんなアートプロジェクトが実践している試みを非常にインスタントな方法で、
場所や時間の制約をそれほど受けずに疑似体験できるプログラムとして行っています。
物語作りの中で他者と自己の決定的な違いを実感した上で、
自分は他者と今現在どう向き合っているのかを再確認し、
さらにこれからどう向き合い得るのかという事を試行する。
その過程が「いちまいばなし」なのです。

破壌した物語の世界を参加者がどう引き受けているのか?
「いちまいばなし」でのそのひとつの指標となるのは会場の笑い声です。
面白い!と思った時に思わず出る笑いは、
この状況を自分の中に受け入れたというサインとして、
言葉を介さずに会場で物語の共有の雰囲気をつくる大きな要素となります。
今回の常陸太田の実演では、
予想以上にこの笑い声が大きく多層的だった様に思います。
町会や役所の関係者も、NPOの方も親子連れも、世代を超え、性別を超え、立場を超え、
様々な場面で会場を交錯するように笑いが起こり、要するによくウケました。
この「笑い」と言うのも不思議な物で、
実際舞台に立っていてこんな事で笑わせている自分がすごいのか、
こんな事に笑う事の出来る参加者の方がすごいのかよくわからなくなる時があります。
会場があれだけの盛り上がりを見せたのは、私だけの力ではなく、
あの場に集まった参加者の皆さんの「向き合う」気持ちや能力がすでに
どこかしら開いていたからではないかと私は思っています。
アートミーティングと銘打ち、
初の披露会の中で出会った方々からそのような反応が垣間見えた事は、
今後のプロジェクトの展開において非常に貴重な事に思えます。
荒唐無稽なイメージの羅列が、
参加者の受容によって物語として昇華されてゆく「いちまいばなし」の様に、
場に集う人々の「向き合おう」という気持ちが発端となり、
この活動が新たな地平へ発展してゆく事を願っています。

佐藤 悠(sato yu)

一見何も無いところから、誰かが関わる事で表現が紡がれてゆく現場を作っています。
Webサイト:http://yusatoweb.wix.com/yusato

1985 三重県生まれ
2011 東京芸術大学先端芸術表現科修了 現在同博士課程在籍
主な展覧会、参加企画等
2009「六本木アートナイト」出展(ホテルアイビス/六本木)
2012「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ」出品(十日町市/新潟)
2012「黄金町バザール2012」参加(黄金町/横浜市)
2013「東京インプログレス リバーサイドツアー」参加(隅田川/東京都)

【関連記事】
Workshop:アートミーティング in 常陸太田

Comment

> Guest > 「いちまいばなし」を実演した佐藤悠と申します。